京都市
陰陽流拳法空手術道
その他子育てにやさしい職場づくりにつながる取組
幼稚園や保育園を中心に、京都で33支部、海外でも5カ国で空手道教室を展開する「陰陽流拳法空手術道」。幼児から大学生、社会人や高齢者まで、男女問わず幅広い年齢層の門下生(生徒)が空手の稽古に励んでいます。スタッフである指導員はほとんどが道場各教室での指導と事務作業の両方を担っています。幼い頃に門下生として入門してその後就職し、30年以上携わるメンバーも。長年の試行錯誤の結果築かれた、働きやすい職場とは。
柔軟な働き方を取り入れ、スタッフとの信頼関係も大切にしています
道場では午後4時ごろから幼児、小学生、中学生と練習が次々と始まり、午後8時半から高校生以上大人の練習へと移ります。気合いを出し、指導員も門下生と共に練習に交わり、その年齢に応じて形や組手の指導を中心に、礼儀作法や時には武士道、道徳にまつわる話をすることも。
そのため、子供たちが、少しでもコロナ禍前の生活を保てるようオンラインレッスンを試みました。
真摯な眼差しや姿勢を直に感じることができないものの、住宅事情で思うように動けないながらも、お友達の顔を見ながら行ったレッスンは子供たちの情緒の安定にも繋がったと保護者の方々からも励ましのお言葉を頂く成果もありました。
「スタッフ同士もコロナ禍の間はリスクの軽減から、できるだけ会わない方がいいと考え、在宅ワークを取り入れました。会うことに無駄はありませんが、会わなくても済む作業があればその方が賢明かと思いまして」と代表で二代目宗家・総師範の稲垣広幸さんは振り返ります。指導員としての業務以外にも、嵐山の渡月橋のたもとで行う寒稽古にはじまり、各支部の運営や年2回開催の帯の審査会や大会、合宿、練習会のための資料作りなど、事務作業も多く、各自の自由な時間を利用してすすめることが可能と判断。出社日は月・金曜の午前のみを基本とし、それ以外は在宅ワークとしました。
子育て中も仕事が続けられるよう、急な休みにも対応できる体制を整備
コロナ禍をきっかけにこのような取り組みをしたことは、子育て中のスタッフの働き方にも変化をもたらしました。「子供の成長過程において抱える悩み事や急な病気、行事などにも対応し易いよう在宅ワークの環境を整えるだけでなく、休まざるをえない場合にも、他の指導員にて対応できるフォロー体制をとっています」と指導員の稲垣尚子さん。
さらに、スタッフが出産などを理由に長期間休むことも想定して、指導員としての技の習得をはじめ、資質向上、指導経験を培うには最低2年は要するという考えのもと、新しいスタッフを迎える準備も現在検討しています。と指導員の稲垣侃(かん)さんは話します。
午前中に教職員として働くスタイルも受け入れています
スタッフの中には4名教員免許の取得者もおり、中学校の非常勤講師として働く人も。稲垣侃さん、まこさんご夫婦もその中の2人で、稲垣まこさんは、午前は中学校で体育の授業を受け持った際は、午後からは道場で指導員として勤務。「周りの教職員方々を見て『こういう風に対応するんだな』ということを学び、刺激を受けています。午後の指導時に接し方を工夫してみることもあります」と、道場を離れて知ることが、門下生への指導にも活かされているようです。このような経験を薦めるのは、指導員としてだけではなく、人として指導に携わるに相応しい人間性を高めることに貪欲に挑戦する姿勢を持っていてほしいという指導員への教育方針でもあります。
制度が確立していても、急な休みは言い出しにくいのが一般的。ところが、「ほとんどの従業員は昔から知っている間柄なので、悩みも相談してくれます」と稲垣広幸さん。「気づけば家族のように近い関係なんです。信頼関係が築けているからこそ、言いやすいのかもしれませんね」と稲垣尚子さんは話します。悩みを打ち明けて自分の心が軽くなることで門下生への指導にも余裕が出る。今度は門下生や保護者から学校生活や進路についての悩みを打ち明けられることもしばしば。言い出しやすい環境は、同術道で継承されていることかもしれません。